ポーの恐怖小説が現実となった!

文学界においてシンクロニシティと深い関係にある作家は、エドガー・アラン・ポーをおいて他にはいない。彼がもっとも得意としたジャンルは超常現象の世界であり、彼の不思議な現象に対する姿勢は作品に色濃く反映されている。

彼が、1838年に書いた小説に『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』という恐怖小説がある。ストーリーはこうだ。

広大な海の真ん中で、4人の男たちが遭難し、ボートで漂流するはめになる。照りつける太陽は厳しく、しかも手持ちの食糧はすぐに底をついた。やがて、飢えと渇きの極限状態が4人を襲う。ここで彼らは、生き残るために恐ろしい選択をするのだ!

「これからクジをひいて、当たった人間を殺し、そいつを残りの3人が食べることにしたらどうだ」。もうだれにも異論はなかった。その結果、あわれないけにえとしてキャビン・ボーイのリチャード・パーカーが選ばれた。彼はその場で刺し殺され、仲間の犠牲となってしまうのだった。

なんとも身の毛のよだつような話である。ところが約50年後、これと同じく難破船からボートで逃げた4人の男のうち3人が、実際にもう一人の男を殺して食べてしまうという事作が起きた。しかも、殺された男は船室給仕で、リチャード・パーカーという名前だったのである。

1884年にこの事件に関する裁判が閉かれ、ポーの小説と事件の関連性が収り沙汰されたが、教育水準がきわめて低かった犯人たちはポーの名前さえ知らなかった。検察側も弁護側も事実と小説の完全な一致に驚愕を隠せなかった。船員たちがポーの名前さえ知らない以上、『アーサー・ゴードン・ピムの物語』について討論してもまったくの無駄だった。

ちなみにこの話は、食べられたリチャード・パーカーの曾孫のナイジェル・パーカーがロンドンの『サンデー・タイムズ』主催になる、「"偶然の一致"体験談コンテスト」に応募して、一位に選ばれ、賞金100ポンドを獲得したものである。判定者は、1983年3月ロンドンで妻とともに安楽死を遂げた、アーサー・ケストラーである。ケストラーは科学ジャーナリストで、超常現象と現代物理学を結びつけようと試みた『偶然の本質』などの著作もあった。

『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』は ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2) に収録されています。

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